営業DXは魔法ではない
営業DXという言葉を聞くと、
「最新のツールを入れれば、売上も自然に伸びるのでは?」
と期待してしまう人も少なくありません。
しかし、現実はそこまで単純ではありません。
営業DXは、
すでに“売れる素地”を持った商品やサービスを、
より広く、より速く届けるための仕組みです。
もし商品そのものが顧客に刺さらない場合、
どれだけデジタル化しても、成果は出にくいのです。

営業DXって、売れ行きを一気に変えてくれるイメージがあるけど……
うん。でもその前に、まず欲しいと思わせる土台が必要なんだ
売れるプロダクトをつくるためのステップ──営業DXの前に考えること
では「売れるプロダクト」を作るにはどうすればいいのか?
実は、いくつかの視点とフレームワークを組み合わせることで整理できます。
→ 顧客が本当に欲しいものを理解する(=ベネフィットを明確にする)
→ 市場や競合を分析し、勝てる場所を選ぶ
→ 商品の魅力を戦略として組み立て、伝わる形に落とし込む
この記事では、まず 顧客と市場を理解するステップ(ジョブ理論→4C→3C→STP) を中心に解説します。
これらは、プロダクトや営業施策を設計する前に、必ず押さえておくべき思考の土台です。
本記事では、この「設計の前段階」に焦点を当てて整理していきます。
売れるプロダクトを作る3つの視点
営業DXの効果を最大化するには、まずは「売れるプロダクト」を作ることが前提です。
ここでは、そのために必要な3つの視点を紹介します。
- 顧客視点──誰のどんな課題を解決するのか
- 市場視点──どこで戦うかを決める
- 提供価値視点──どう魅力を形にして伝えるか
1.顧客視点──誰のどんな課題を解決するのか
「お客さんはなぜこの商品を買うのか?」
答えはシンプルで、“解決したい課題があるから”です。
マーケティングの世界では、ジョブ理論という考え方があります。
これは「お客さんは製品を“雇って”、自分の課題(ジョブ)を片付けてもらっている」というもの。
たとえば…
- ドリルを買う人が本当に欲しいのは「穴」
- コーヒーメーカーを買う人が欲しいのは「朝の目覚めの時間」
- 防水ジャケットを買う人が欲しいのは「雨の日でも快適に移動できる安心感」
つまり、顧客が求めているのは製品そのものではなく、その製品がもたらす結果や価値です。
これをマーケティングでは「ベネフィット」と呼びます。
機能を説明するだけじゃダメなんだ。未来のメリットを語らないと
4Cで顧客価値を整理する
顧客が「何に価値を感じるのか」(=ベネフィット)を整理するために、
ここでは 4C の視点を使います。
- Customer Value(顧客価値)
顧客がその商品・サービスから得られる価値やメリットを指します。たとえば営業支援ツールであれば、「商談化率が上がる」「営業資料作成の時間が半減する」といった成果がこれに当たります。 - Cost(顧客の負担)
顧客が支払うのは金額だけではありません。導入にかかる時間や手間、学習コストも含めた総合的な負担を考えます。「月額1万円」という価格だけでなく、「導入設定が30分で終わる」といった点も、重要な価値になります。 - Convenience(利便性)
購入や利用のしやすさを意味します。クラウド型でブラウザからすぐ使える、困ったときに相談できるサポート体制がある、といった点がここに含まれます。 - Communication(コミュニケーション)
顧客との関係づくりや情報の届け方です。導入後も定期的に改善提案を行ったり、活用事例をメールで共有したりすることが、長期的な価値につながります。
「ドリル」を例に4Cで整理してみると…
- Customer Value(顧客価値)
きれいで正確な穴を短時間で開けられる - Cost(顧客の負担)
1台1万円、軽量で手が疲れにくい - Convenience(利便性)
コードレスで持ち運び自由、充電も1時間以内 - Communication(コミュニケーション)
購入後も使い方動画やメンテナンス情報を配信
これを伝え方に落とし込むと…
- 「誰でも3分で、まっすぐで美しい穴が開けられます」
- 「片手で持てる軽さ。長時間作業でも疲れにくい設計」
- 「コードレスだから、コンセントがない場所でも作業OK」
- 「購入後も無料で使い方動画をお届けします」

なるほど、こうやって“機能”が“価値の伝え方”に変わるんだ
そう、4Cで整理すると顧客に響く言葉が見えてくるんだよ
2.市場視点──どこで戦うかを決める
「売れるプロダクト」は広い市場に出すのではなく、狙いを定めて投入します。
3Cで市場の全体像をつかむ
次に 3C分析 を使って、
市場の構造と自社の立ち位置を整理します。
- Customer(顧客)
顧客がどんな課題やニーズを持っているのかを把握します。たとえばDIY初心者であれば「軽くて安全に使えるドリル」が求められますし、プロの職人であれば「パワーがあり、長時間使えるドリル」が重視されます。 - Competitor(競合)
同じ市場にある商品やサービスの特徴を整理します。「A社は安価だがパワーが弱い」「B社は高価だが精度が高い」といった違いを把握することで、差別化の余地が見えてきます。 - Company(自社)
自社の強みと弱みを客観的に見つめます。たとえば「軽量設計や安全機能には自信があるが、ブランド知名度はまだ低い」といった現実を正しく認識することが重要です。

3Cで整理すると、自社の立ち位置が見えてくるね
そう。この情報をもとに“どこで戦うか”を決めるんだ
STP分析で戦略を固める
次に STP分析 を使って、
どこで戦うか、誰に届けるかを明確にします。
- Segmentation(市場を分ける)
まずドリル市場を、DIY初心者/プロ職人/女性ユーザー/高齢者ユーザーなどに分類します。 - Targeting(狙う層を決める)
その中から、自社の軽量設計や安全機能を最も活かせる「DIY初心者」と「女性ユーザー」にターゲットを絞ります。 - Positioning(見せ方を決める)
「片手で持てる軽さ」「穴あけガイド付きで失敗しない」といった特徴を前面に出し、初心者でも安心して使えるドリルというポジションを明確にします。
STP分析で整理した内容を、ポジショニングマップで可視化してみましょう。

全部の顧客を狙うより、一部に絞った方がいいってこと?
そう。全部を狙うと “なぜ選ばれるかがボヤける”。絞れば“選ばれる理由”がハッキリするんだ
3.提供価値視点──どう魅力を形にして伝えるか
顧客視点・市場視点が固まったら、それを実際に“売れる形”に落とし込む段階です。
このフェーズでは 4P と バリュープロポジションキャンバス を使うと整理しやすくなります。
4Pで販売戦略に落とし込む
まずは4Pを使って、
商品・価格・流通・販促を具体的な施策に落とします。
- Product(商品)
提供する商品・サービスの特徴や強みを定義します。たとえば、「初心者でも扱いやすい軽量ドリル」や、「穴あけガイド付きで失敗しにくい設計」が挙げられます。 - Price(価格)
顧客が「この価値なら払ってもいい」と感じる価格や支払い方法を決めます。「1万円台で手が届きやすい価格」に設定したり、「分割払いの選択肢を用意」したりすることも有効です。 - Place(流通)
顧客が商品を入手しやすい販売チャネルを考えます。「ホームセンターで気軽に購入できるようにする」ほか、「ECサイトから即日配送できる体制を整える」ことも選択肢になります。 - Promotion(販促)
商品価値を、どのように顧客に伝えるかを設計します。「はじめてでも失敗しない」という安心感を打ち出した動画広告や、店頭での実演イベントなどが考えられます。
バリュープロポジションキャンバスで整合性を確認する
バリュープロポジションキャンバスは、
「顧客が困っていること」と「こちらが提供している価値」が
本当に対応しているかを、一目で確認するためのフレームです。
4Pで施策を考えても、
「顧客の困りごと」とズレていれば、売れるプロダクトにはなりません。

バリュープロポジションキャンバスで導く結論
ここまで、ドリルを題材にして
顧客の課題と、それに対する提供価値を対応させて整理してきました。
この作業を通じて見えてきたのは、
「高性能なドリル」ではなく、
「初心者が安心して最初の一歩を踏み出せるドリル」こそが選ばれる
という結論です。
【ターゲット顧客】
- DIY初心者や女性ユーザーなど、
「気軽にDIYを始めたいが、失敗や安全面に不安を感じている層」
【最適なドリルの特徴】
- 軽量で片手でも扱えるため、長時間使っても疲れにくい
- 穴あけガイド付きで、初心者でもまっすぐ穴を開けやすい
- 安全ストッパー付きで、操作に不安がある人でも安心して使える
これらはすべて、顧客が感じている「重そう」「失敗しそう」「危なそう」という不安を直接取り除くための設計です。
【訴求メッセージ例】
- 「はじめてでも安心。誰でも3分でキレイに穴あけ」
- 「軽くてラク。失敗しないから、DIYがもっと楽しくなる」
機能ではなく、不安がなくなる体験を伝えることがポイントです。
【製品イメージ例】
- 製品名:「はじめてDIYドリル」
- パッケージコピー:「軽くて安心、初心者のためのドリル」
- 販促イメージ:ホームセンターの棚に“初心者コーナー”を設け、手に取った瞬間に軽さを実感できる展示を行うことで、「自分にも使えそう」という安心感をその場で伝えます。
製品開発とマーケティングは同時進行
ここまでで、
「どんなプロダクトを作るべきか」は、かなり具体的に見えてきたはずです。
では、その設計が本当に市場に刺さるかどうかは、
いつ、どのように確かめればよいのでしょうか。
昔は「商品を作ってから売る」
という進め方が一般的でした。
しかし今は、
「売れるかどうかを、作りながら確かめる」
という考え方が重要になっています。
その代表的な発想が、
MVP(Minimum Viable Product)です。
「作りながら確かめる」という考え方(MVP)
MVPとは、
完成度の高い製品をいきなり作ることではありません。
- 必要最小限で作り
- 市場に出して反応を見て
- ズレがあればすぐ直す
このサイクルを回すための考え方です。
これにより、
- 顧客の声を早い段階で取り込める
- 大きな失敗をする前に軌道修正できる
というメリットがあります。

売れるかどうかは、発売してから分かる…
じゃ遅いってことだね。
そう。作りながら“売れるかどうか”を確かめられるかどうかが、
今のプロダクトづくりでは大きな差になるんだ。
売れるプロダクトをつくる「開発ステップ」という考え方
ここで大切なのは、
「開発には決まった工程がある」という話ではありません。
ポイントは、
仮説と現実のズレを、できるだけ早く見つけることです。
そのための基本的な考え方として、
多くの現場では次のような進め方が取られています。
- 仮説を立てる
- 最小限で試す(MVP)
- 反応を見て、ズレを修正する
これは作業手順というより、検証の姿勢だと考えてください。
次のステップ:開発と営業DXをどうつなげるか(まとめ)
ここまで見てきたように、
売れるプロダクトづくりに必要なのは、
最初から完璧な商品を作ることではありません。
重要なのは、
- 顧客・市場・提供価値を整理し
- 「これなら刺さるはず」という仮説を立て
- 小さく試しながら、ズレを修正していくこと
この検証の姿勢です。
そして、この「作りながら確かめる」プロセスを
現場で無理なく回し続けるための仕組みが、営業DXです。
営業DXは、
営業を効率化するためだけのものではありません。
顧客の反応をデータとして捉え、
「この仮説は合っているのか、ズレているのか」を
早い段階で確かめるための仕組みです。
たとえば、
- どの顧客が反応したのか
- どの情報に興味を示したのか
- どのタイミングで動きが止まったのか
こうした反応を“感覚”ではなく、
データとして見えるようにすることで、
仮説検証を現場で回せるようになります。
仮説を立て、
小さく試し、
反応をデータで見て、
必要ならすぐに直す。
このループを回し続けられるかどうかが、
売れるプロダクトと、売れないプロダクトを分けます。
小さな仮説と、小さな検証から始めてみてください。
その積み重ねが、
自然と“売れるプロダクト”へと近づけてくれるはずです。
